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千葉地方裁判所 昭和40年(ヨ)56号 決定

申請人 渡辺好郎

被申請人 青木芳江

右法定代理人親権者 青木とくよ

主文

本件仮処分申請を却下する。

理由

申請人は、「被申請人は、申請人、被申請人間の千葉地方裁判所昭和三九年(タ)第一一号親子関係存在確認請求事件の判決確定に至るまで戸籍の異動をしてはならない」との裁判を求め、申請の理由として別紙のとおり述べた。

しかしながら、仮処分は権利の保全を目的とするものであるから本来本案判決によっても実現し得ないような処分を求めることはできない。そして、養子縁組その他身分上の法律行為はその要件を具備する以上これをすると否とは全く当事者の自由意思に基くものであることはその行為の性質上当然であって、法律の規定によらずして、みだりに他人からこれを強制し又は抑止しされるべきものではなく、このように本来本案訴訟によっても求め得ないような身分行為の禁止を内容とする仮処分は許されない。

本件仮処分申請は要するに被申請人の養子縁組その他身分上の法律行為の禁止を内容とする違法な仮処分を求めるものであるから、申請自体失当として却下を免れ難い。

なお仮処分はその目的である物件もしくは権利関係について権利者であると主張する者の申請に基づいてなすべきものであって、法律上何らの権利を有しない者の仮処分申請は許されるべきものではない。そして、養子となる者が一五歳未満であるときは、その法定代理人がこれに代って縁組の承諾をすることができ(民法第七九七条)、かつ未成年者を養子とするときは、原則として家庭裁判所の許可を得なければならない(同法第七九八条)こととされ、被申請人が一五歳未満の者であることは提出の戸籍謄本によって認めうるけれども、申請人が被申請人の法定代理人であることの主張、疏明はなく、かえって、現在被申請人の母とくよが単独親権者、法定代理人であることは申請人の自認するところであるから、被申請人の養子縁組については右とくよおよび家庭裁判所以外何人もこれに介入し、阻止しうる権限を有しない。もっとも、申請人は、被申請人が自分の実子である旨主張するが、被申請人が、戸籍上、その母とくよと申請外福田孝重との婚姻中出生した子として届出されていることは前記戸籍謄本によって認めうるから、仮にとくよが孝重の子を懐胎し得ないような事情にあって、被申請人が申請人の実子であるとしても、判決により右孝重と被申請人間に親子関係の存在しないことが確認され、右戸籍を訂正(戸籍法第一一六条)したうえ、被申請人を認知するのでなければ、申請人は被申請人を自分の子であると法律上主張することができず、仮に右のとおり被申請人を認知したとしても、申請人は直ちに被申請人の法定代理人となるものではなく、被申請人の母とくよとの協議又はこれに代る家庭裁判所の審判によって親権者、法定代理人となりうる可能性が生じうるに過ぎない(民法第八一九条第四、五項)のであるから、申請人が被申請人の養子縁組について何らの権限を有しないこと明らかである。

よって、申請人の本件申請は主張自体失当であってこれを認容するに由ないものであるから、これを却下すべく、主文のとおり決定する。

(裁判官 若林昌俊)

〈以下省略〉

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